離職防止の打ち手|辞める理由から考える、中小企業の現実的な対策

採用にかけた費用と時間を思うと、一人辞めるたびに気持ちが重くなる。中小企業の経営者から、そうした声をよく耳にします。
離職を防ぐ方法を調べると、1on1、評価制度、エンゲージメント調査といった言葉が並びます。ただ、専任の人事担当がいない会社で、それらをすべて回すのは現実的ではありません。
この記事では、公的な統計から「社員が実際に辞める理由」を確認したうえで、人手の限られた会社が現実に打てる手を整理します。私たちは岐阜県羽島市の米農家「丸恵商会」で、企業向けにお米の福利厚生を提供しています。福利厚生でできること、できないことも正直に書きます。
いまの離職率はどのくらいか
感覚で語る前に、全体の水準を押さえておきます。
厚生労働省の令和6年雇用動向調査によると、令和6年1年間の離職率は14.2%。入職率は14.8%で、入職が離職を0.6ポイント上回りました。前年と比べると、入職率は1.6ポイント、離職率は1.2ポイント低下しています。
常用労働者のおよそ7人に1人が、1年のあいだに職場を離れている計算です。10人の会社なら1人か2人。決して珍しい出来事ではありません。
裏を返せば、離職をゼロにすることを目標にすると、達成できない目標を追い続けることになります。狙うべきは「防げる離職を防ぐ」ことです。
社員が辞める理由は、給料だけではない
では、何が「防げる離職」なのか。同じ調査に、転職した人が前の職場を辞めた理由が載っています。
| 理由 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 定年・契約期間の満了 | 14.1% | — |
| 給料等収入が少なかった | 10.1% | — |
| 職場の人間関係が好ましくなかった | 9.0% | 11.7% |
| 労働時間、休日等の労働条件が悪かった | 8.6% | 12.8% |
| 会社の将来が不安だった | 7.4% | — |
※令和6年雇用動向調査より。「その他の個人的理由」(男性20.2%・女性24.3%)を除いた上位を抜き出しています。女性の欄は、調査で明示されている上位2項目のみを記載しました。
注目したいのは、男性で最も多いのが「定年・契約期間の満了」だという点です。これは会社側の問題ではありません。ここを除くと、残るのは給料・人間関係・労働条件・将来への不安の4つです。
そして女性では、労働条件と人間関係が給料を上回っています。「辞められるのは給料が安いからだ」と考えている経営者にとって、これは見直しのきっかけになる数字です。
給料を上げれば引き止められる、とは限らない
同じ調査には、転職した人の賃金がどう変わったかも出ています。前職と比べて「増加」した人は40.5%、「減少」した人は29.4%、「変わらない」が28.4%でした。
つまり、転職した3人に1人は収入が下がっています。それでも移った理由が、労働条件であり、人間関係であり、将来への不安だということです。
賃上げは当然大切ですが、それだけで人が残るわけではありません。原資が限られる中小企業にとっては、むしろ救いのある事実だと考えています。
一人辞めると、会社はいくら失うのか
対策に予算を割く前に、離職1件あたりの損失を自社の数字で出しておくと、判断が楽になります。
よそから借りてきた相場は当てになりません。会社によって採用の仕方も教育期間も違うためです。次の4つを足すだけで、おおよその見当はつきます。
- 採用にかかった費用: 求人広告費、紹介手数料、説明会や試験の実費
- 採用にかけた時間: 書類選考・面接に関わった人の時給 × 時間
- 戦力になるまでの期間: 一人前の何割で働いていたかを月単位で見積もる
- 抜けた穴を埋めた費用: 残った社員の残業代、派遣・外注に出した分
この4つを足すと、思っていたより大きな金額になることがほとんどです。福利厚生の年間予算がその何分の1かを見れば、どこまで投資してよいかの目安になります。
逆に、この計算をしないまま「福利厚生は余裕ができたら」と後回しにすると、毎年もっと大きな金額が静かに出ていくことになります。
人手が限られた会社が、現実に打てる手
統計の4つの理由に対して、専任の担当がいなくても着手できることを順に挙げます。
1. 労働時間と休日を、まず数字で把握する
女性で最も多い理由がここでした。制度を変える前に、誰が何時間働いているかを月次で見えるようにするところから始めます。
残業が特定の人に偏っていないか。有給が何日残ったまま消えているか。数字にすると、感覚では見えなかった偏りが出てきます。
2. 辞める前の兆しを拾う場をつくる
人間関係が理由の離職は、突然起きるものではありません。ただ、経営者に届く頃には手遅れになっていることが多いのも事実です。
毎月15分でも、業務の報告ではない話を聞く時間を設ける。相談相手を直属の上司以外にも用意する。仕組みとして大げさである必要はありません。
3. 会社の先の話を、社員に伝える
「会社の将来が不安だった」は、前年からの上昇幅が男性で最も大きい項目でした(2.2ポイント上昇)。
経営者が考えていることは、黙っていれば伝わりません。売上の見通し、次に取り組むこと、なぜその設備を入れたのか。年に数回でも言葉にして共有するだけで、受け取り方は変わります。
4. 待遇の「実感」を増やす
給与の額は簡単には動かせません。それでも、待遇として受け取れるものを増やすことはできます。ここが福利厚生の出番です。
低コストで始められる福利厚生の実例は、中小企業の福利厚生の事例まとめにまとめました。
福利厚生でできること、できないこと
福利厚生を扱う立場ですが、万能薬のように書くつもりはありません。効く場所と効かない場所があります。
| 離職の理由 | 福利厚生で効くか |
|---|---|
| 給料等収入が少なかった | △ 生活費の一部は補えるが、給与への不満そのものは解消しない |
| 職場の人間関係が好ましくなかった | × 効かない。別の手当てが必要 |
| 労働時間、休日等の労働条件が悪かった | × 効かない。働き方そのものの問題 |
| 会社の将来が不安だった | △ 会社が社員に投資している姿勢は伝わる |
人間関係と労働条件には、福利厚生は効きません。ここを福利厚生で埋めようとすると、費用をかけたのに離職が止まらない、という結果になります。
福利厚生が担えるのは、「この会社は社員のことを考えている」という日常的なシグナルを送り続けることです。給与明細の額面には出ませんが、毎月続けば伝わります。
続かない福利厚生に共通すること
導入したものの、いつのまにか使われなくなる制度があります。共通点は3つです。
- 使える人が限られる: 特定の年代・家族構成の人しか恩恵を受けない制度は、不公平感を生みます
- 会社側に作業が発生する: 希望の取りまとめや配布が必要な制度は、担当者の負担で止まります
- 使わなくても費用がかかる: 利用実績と関係なく固定費が出ていくと、経営者が続ける理由を失います
逆にいえば、「誰でも使える」「会社の手間が増えない」「使った分だけの費用で済む」の3つを満たす制度は、続きやすいということです。

どの福利厚生が社員に喜ばれているかは、従業員に人気の福利厚生ランキングでも整理しています。
私たちがお米という形を選んだ理由
私たちが企業向けにお米の福利厚生を提供しているのも、いま挙げた3つの条件を考えた結果です。
- お米を食べない社員はほとんどいません。年代も家族構成も選びません
- 社員がLINEから直接注文するため、会社での取りまとめ作業がありません
- 導入費は0円。注文がなければ月額基本料もかかりません
ご自宅への配送も選べるため、現場に出ている社員やテレワーク中の社員にも届きます。家族のいる方には、その分だけ生活の助けになります。
仕組みと費用の考え方は、お米の福利厚生とは?で詳しく説明しています。
ただし、繰り返しになりますが、お米で人間関係や長時間労働は解決できません。労働時間の把握と話を聞く場づくりを先に進めたうえで、待遇の実感を足す一手として考えてください。
辞める前に出やすいサイン
退職の申し出は突然に見えても、その前に変化が出ていることがあります。日常で気づける範囲のものを挙げます。
- 有給の取り方が変わる(平日に単発の休みが増える)
- 業務の引き継ぎ資料を、頼んでいないのに整理し始める
- 社内の雑談や飲み会への参加が減る
- 改善の提案をしなくなる(諦めのサイン)
- 残業を断るようになる
どれも「これが出たら辞める」と断定できるものではありません。ただ、複数が重なったときに声をかけられるかどうかで、結果は変わります。
大切なのは、気づいた時点で待遇の話に持ち込まないことです。慰留の条件を出す場面ではなく、何に困っているのかを聞く場面だと考えてください。
よくある失敗:辞めると言われてから条件を出す
退職の申し出を受けてから、給与や役職の条件を提示して引き止める。気持ちは分かりますが、この方法は後々に響きます。
まず、条件を出して残ってもらえたとしても、辞める理由が待遇でなかった場合、根本は何も変わっていません。数か月後に同じ話が繰り返されます。
そして、この対応は他の社員にも伝わります。「辞めると言えば条件が良くなる」という前例ができると、真面目に働き続けている人ほど報われない構図になります。
条件は、辞めると言われる前に出すから意味があります。在職中の面談で困りごとを聞き、できる範囲で先に手を打つ。順番が逆になると、費用をかけたのに信頼を失うことになりかねません。
最初の1か月で進めること
あれもこれもと同時に始めると続きません。順番の目安を置いておきます。
| 時期 | やること | かかる手間 |
|---|---|---|
| 1週目 | 全社員の残業時間と有給残日数を一覧にする | 半日 |
| 2週目 | 偏りが大きい人から順に、15分の面談を設定する | 1人15分 |
| 3週目 | 面談で出た困りごとを、費用がかかる・かからないで仕分ける | 1時間 |
| 4週目 | 費用がかからないものから着手し、社員に結果を伝える | — |
4週目の「結果を伝える」を飛ばさないでください。聞いたまま何も起きないと、次から本音が出てこなくなります。
福利厚生の検討は、この一巡が終わってからで間に合います。困りごとの中身を知ってから選ぶほうが、外れにくくなります。
離職防止に関するよくある質問
経営者の方から寄せられることの多い質問をまとめます。
まとめ:防げる離職から順に手を打つ
この記事の要点を整理します。
- 令和6年の離職率は14.2%。ゼロを目指すより、防げる離職を防ぐ
- 辞める理由は給料だけではない。女性では労働条件と人間関係が給料を上回る
- 転職者の29.4%は収入が下がっている。賃上げだけが引き止めの手段ではない
- 福利厚生は人間関係と労働条件には効かない。効く場所を見極めて使う
まず労働時間を数字で把握し、話を聞く場をつくる。そのうえで、待遇の実感を足していく。この順番が現実的だと考えています。
お米の福利厚生についてのご相談は、いつでもお受けしています。
